RadioHeadレディオヘッド アルバム考その6 ヘイルトゥーザシーフ

今回はこれ。

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タイトルのhail to the thief =泥棒万歳は、「hail to the chief」(大統領万歳。アメリカ大統領のテーマ曲)のもじりで、当時の大統領選で票の集計に不正があったとして訴訟を起こされたジョージwブッシュに対するあてつけ。

ちなみにブッシュ前大統領は下の写真の右側。

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左だったかな。

で、うーん、これは‥‥、

なんというなんということもないアルバムだろう!

全曲通して聴いても、後に何も残らない。

OKコンピュータの胸を掻き毟りたくなるような感覚も、キッドAの高みにのぼって行くような清々しさも、何もない。ただ曲が始まり、いつの間にかそれが終わっている。

何でだろうと不思議に思った。曲が良くないとか、演奏の上手い下手とか、このアルバムが気の抜けた炭酸水のように弾けてこないのは、そうしたこととは別の理由による。

最高の料理人が極上の素材を使ってテキトーに作った料理。そんな感じか。

要は熱意の問題だろう。厳しい言い方をすれば、心がない。魂が入ってない。

だが、それも無理からぬことではある。世界でもっとも影響力のあるバンドの1つになり、億万長者にもなって、その状態で5~6年も過ごせば、嫌でも人は変わる。

彼らが成功を夢見るワーキングクラスの若者だった当時の曲作りの手法をそのままなぞってみても、同じものができるはずもないのである。

かく言う私は、大金とも成功とも縁のない人生を胸を張って歩んできたが、幸い縁には恵まれて、大金や成功と縁の深い友人知人は少なからずいる。

彼らを間近で見てきて悟ったことは、十分な財力を有すると、私ごとき凡夫が抱える悩みの大半は、跡形もなく霧消してしまうだろうということだ。

たとえば、私の母は認知症で、昨夏から施設のご厄介になっているが、昨日がちょうど母の日で、それもあって仕事の後で会いに行き、食事の介助をし、ベッドに寝かせてしばらく話をした。

施設から帰る時、それはいつものことだが、車に乗ってエンジンをかけるまでに、いつもより必ず10秒余計に要する。母が不憫なのだ。どうにか家に引き取れないかと考える。それができない十の理由が頭に浮かぶ。「無理だ、こうして会いに来るのがやっとだ」そう結論付け、踏ん切りをつけて、キーを回す。その間約10秒。

ももう若くなく、それなりに経験を積んできて、一瞬兆した考えに精神のバランスを崩されることはないが、それでも、そうした悔恨とか無念さが、積もり積もって、精神衛生上好ましくないことは疑いの余地がない。最近やけに白髪がめだちはじめたのも、それと無縁ではないはずだ。

仮に私が億万長者であれば、家全体をバリアフリーにして、寝室をひろげ、介護用の多機能ベッドを置き、介護士の方にも来ていただいて、母も、脳がじわじわ委縮すること以外は、これまでと変わらず、家族の一員として暮らすことができるだろう。そうなったらなったでまた別の問題が生じるのかもしれないが、少なくとも私も、介護老人保健施設の駐車場で、やたら重いイグニッションキーと格闘する必要はなくなるのだ……。

ん? 脳の萎縮……なんの話だ。

そう、レディオヘッドに話を戻そう。

彼らは、ポップスターになる夢を選び、それをかなえた。その道を選んだ以上、その道で生きるしかない。億万長者のポップスターとして曲を作り、アルバムを作り続けるしかないのである。

願いや悩みの大半がかなえられ解決された中で、それでも彼らが何を願い、何に悩むのか、私はそれを聴きたい。


"2+2=5" by Radiohead (Glastonbury 2003)

もちろんレディオヘッドというバンドがこれで終わるはずもなく、彼らはさっそく次作で新境地を、余裕しゃくしゃくの名盤を産み出してみせるのだ。

が、それはまた次の機会に……。