RadioHeadレディオヘッド アルバム考その7 インレインボウズInRainbows
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今回はコレ。
レディオヘッドの7作目、「In Rainbows」。
いや~良いアルバムだ。
良い意味で力の抜けた、大人の余裕を感じさせる作品。全編通して集中が保たれ、作り込みのさじ加減も絶妙。OKコンピュータやキッドAが少々尖り過ぎという方には、私は迷わずこの作品をおすすめしている。
全体の音数がぐっと減り、それだけメンバー個々の成熟した表現が直に伝わる。テクノっぽいアプローチを封印して、今回はそれがうまくハマっている。
ダンサブル(踊れなくもないという程度だが)な曲もあって、あのレディオヘッドがな〜と感慨深い。
まずは2曲目のボディスナッチャー。
ちょうど半分を過ぎた頃、演奏前のオーケストラのチューニングを思わせる不揃いな音が、指揮者が振るタクトのようなジョニーのギターに合わせて、すっと揃う瞬間の気持ち良さ。
バラバラだったワルたちが、ある出来事をきっかけに1つにまとまり、団結して花園をめざす、みたいな胸のすく展開。
このVを観ても、トムは途中までずらしずらし唄っているし(なんとなくボブディランっぽい)、曲の意図をバンドが完全に理解して音を出していて、計算されつくしたミステリーを紐解くような知的な愉しみがある。さすが読書家の多いバンドらしい。
タイトルでピンと来た方もいるかもしれないが、実はこれ、同名の映画にインスピレーションを得た作品で(簡単に言うと地球外生命に体を乗っ取られる話)、ズレた感じ、音の揃わない感じは、自分の体が自分のものではなくなっていく違和感や恐怖心を表している。
自分がわからない、どうにも動けない‥‥、悩み、惑う間は、音も不揃いで、どこか聞き苦しいが、全部俺のせいだ、俺は偽物だ、と、己の罪や弱さをはっきり自覚した瞬間から、たとえようのない美しさを身にまとうという、それは、デビュー以来一貫しているトムの人間理解で、創作のテーマとも言えるだろう。
あやのあるストーリーを、バンドが一体となって表現している。簡単なことではないが、先に書いた、肩の力の抜けた大人の余裕と、一人一音と言うか、一音必殺と言うか、音数に頼らない、一音に込めた思いの正確さで伝え切っているのが、この作品を珠玉のレベルまで高めている要因だろう。
そういう意味で、五曲目のオールアイニード。
これぞまさに一人一音って感じ。途中ジョニーがシンセ弾きながら鉄琴叩いてるけど‥‥。
バンドをやっている人には、ぜひこういうごまかしのきかない曲で、メンバー同士の音や呼吸の合わせ方を知ってほしい。
トムの書く詩はシンプルで言葉数も多くないので(それだけ広がりもあるのだが)、英語が得意じゃない、洋楽は苦手という人でも、すぐに入り込むことができると思う。
この曲も途中トムがピアノを弾きだす前辺りからぐあーっと盛り上がってきて、「すべてよし」「全部だめ」のリフレインの果てにぶつっと曲が途切れて後に余韻が残る。
情景描写のようなエドのギターと曲をリードするコリンのベースが印象的だ。
そしてレディオヘッドの曲を聴くといつも思う事だが、フィルセルウェイのドラムの安定感というか落ち着きが、バンドの繊細な表現の中でいかに重要なパートかということを改めて思う。ストーンズのチャーリーワッツとかレッチリのチャドスミスとか、出しゃばらず一見地味だけど、実は非常に個性的で芯の強いドラマーがいるバンドは、長続きするし、バンドの進化や成長を引き出しやすい気がする。
最後はこの曲。
私的には、レディオヘッドの全曲中でもトップ10か、ひょっとすると五指に入るぐらい好きな曲だ。
歌詞は非常にわかりにくい(舌の根も乾いてないけど)。おごそかで、宗教的でもあるが、空しさとか無常観が色濃く、西洋よりは東洋っぽい。
サビの部分に言う。
Because we separate
Like ripples on a blank shore
In rainbows
トムも認めているし、歌詞がアルバムタイトルに採用されていることからも、この曲がアルバムの核になっているのは間違いない。
この曲も、サビに入る直前の静けさの作り方が秀逸で、アルバム全体のテーマをファルセットで唄うトムの声が、耳や脳より深いところへじわっと染み込んでくる。
収録された全十曲、こうして、すべてがただでは終わらない。うねり、起伏し、うつろい、変化し、曲が変わっても、連なりは消えない。十曲聴き終えて、リピートされて一曲目が始まる。普通はそこで気持が途切れるが、このアルバムはそのまままた聴き入ってしまう。まるで輪廻転生のように。
ひとりのファンとしては、こういう作品をまた頼むよと思ってしまうのだが、それに簡単に応えるようでは、レディオヘッドがレディオヘッドでなくなってしまう。
成功をむさぼらず、居心地の良い場所にとどまらず、せっかく登った高みから、その先に奈落が待ち受けていようとも、彼らは歩みを止めないのだ。
実際彼らは次作で地獄を‥‥いや、それはまた別の機会に。