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RadioHead レディオヘッド アルバム考 その1 パブロハニーPabloHoney

若いころ聴きまくったバンドの音楽を、おっさんになってからも聴けるというのは有難いことである。

普通は心が離れる。趣味趣向が変わるし、良くも悪くも耳が肥えてくる。

ロックは若者の音楽!大人になんかなりたくない!

そんなこと言ったって、男は必ずおっさんになるし、おっさんになってもロックは聴きたいのだ。

いや、正直に言うと、耳にする音楽の中で、ロックが占めるパーセンテージは年々減ってきた。アンビエントとか、バッハやブラームス、マイルスデイビスあたりに取って代わられる。それか、曲名を読むこともできない民族音楽に。そもそも聴く音楽の総量が減ってくる。静寂がいとおしくなってくるのだ。   

ロックは飽きる。たいがい飽きる。食卓のから揚げを見てもテンションが上がらなくなるのと同じように、焼酎のお湯割りをちびちびやっている時に、そっと出される煮つけに笑みがこぼれる、そういう心境にだんだんなってくる。

レディオヘッドは、それでも聴き飽きない稀有な存在である。

若いころ確かにから揚げだったのに、今食べると煮つけの味がする。ギターがうなり、ボーカルは叫んでいるのに、背後の静寂に無性に心を惹かれる。

その多様性、引き出しの多さこそ、彼らの真骨頂と言えるだろう。だから、若者には若者の、おっさんにはおっさんの愉しみ方がある、聴くたびに新たな発見がある。 

さまざまな音楽要素をごった煮にしているが、レディオヘッド節(ぶし)と言うか、トムヨーク節と言うか、それでしっかりダシを取っているから、アルバム全体を通して統一感がある。

レディオヘッドは昨年、2016年のサマーソニックに参加したが、私は行けなかった。今年4月にバークレーでライブをやるらしいが、行けるはずもない。

仕方ないので、これまでに発表された9枚のスタジオ音源をじっくり聴き直して、彼らの音楽がどうしてこうも長きにわたって人を惹きつけ色褪せないのか、その辺の秘密をひも解いてみようかと思う。

 

というわけで、まずはこれ、 

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いとしのパブロ君。パブロ君は蜜の味?

ダサいタイトル。ダサいジャケット。

1993年発表のデビューアルバム。

はっきり言って世間の評価は低い。私の評価も高くない。なぜならこのアルバムは「レディオヘッドでなくても良い」からだ。

当時アメリカで流行していたグランジオルタナティブ系の影響が色濃い。実際本国イギリスよりアメリカで先に人気に火がついた。と言ってもシングル曲の『CREEP』ばかりが注目された。

リアルタイムでこれを聴いた記憶はない。聴いたとしても記憶に残らなかったのだろう。

グランジブームは91年にピークを迎えた。ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』。パールジャムの『テン』。サウンドガーデンの『バッドモーターフィンガー』。グランジの金字塔とも言えるアルバムがこの年立て続けに世に出された。二十歳の大学生で西麻布や六本木のクラブに足繁く通っていた私は、この風をまともにくらった。

まず音に痺れた。映像に驚愕した。

彼らはピタピタの皮パンを穿いていなかった。鍛え上げたムキムキの体もしていなかった。よれよれのカーディガンを着たひょろひょろの男が、無表情のままギターをアンプに突き刺しまくっている、それがたまらなくかっこよかった。さっそく髪を伸ばし、ジーンズに穴をあけた。

パブロハニーはそんなわけで、遅れてきたイギリスのグランジ、ぐらいの印象しか当時の私にもたらさなかったのだろう。

 ただ、今回改めて聴いてみると、原石っぽさは確かにある。節とまではいかないが、『レディオヘッドの音』のかけらがそこここに散らばっている。いまだ形を成さない、それが歯がゆくもあるし、開花する前のつぼみのいじらしさもある。なにより、後年の作品に比べて非常に単純で、わかりやすくとっつきやすい。

 売れなかったシングルの中で、唯一CREEPだけが気を吐いた。


Radiohead - Creep

俺は気持ち悪い‥

俺の居場所はここじゃない‥

暗い‥‥。

ネガティブかつ陰鬱かつ破滅的。

それもグランジの傾向ではある。『否定』と叫び続けたニルヴァーナのカートコバーンは、94年に自殺した。涅槃どころじゃなかった。

しかし、レディオヘッドにおいては、どんなに暗かろうと(鬱メロの極致と言える3作目のOKコンピュータでさえ)、奇妙な明るさが音間に漂っている。猟銃で頭を吹き飛ばすのとは逆の発想、美の追求、生の肯定が感じられてならない。それが、凡百のグランジバンドと彼らを分かった成長力の源だったのではなかろうか。

パブロハニーを聴いた他のミュージシャンたちが「レディオヘッドは良い」としきりに発言していたというが、さすが本職の連中は、原石が磨かれて輝きだすことを、この未成熟のアルバムからはっきりと感じ取っていたのだろう。

 

レディオヘッドは2年後に発表した2作目で早くも開花する。

が、それはまた次回。乞うご期待。

御一読ありがとうございました。